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CFRP双安定ブームの宇宙応用

担当教員:梶原

CFRP双安定ブームとは

 人工衛星や探査機などの宇宙機では、ロケットによる打上げ時には小さく収納し、宇宙空間に到達した後に大きく展開する「展開構造」が重要な役割を担っています。太陽電池パネルやアンテナ、観測機器などをより大型化するためには、軽量であること、高い収納効率を持つこと、さらに確実に展開できることが求められます。

本研究室では、このような宇宙展開構造の実現に向けて、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics: CFRP)を用いたCFRP双安定ブームについて研究しています。CFRP双安定ブームは、薄いCFRP板を開断面の筒状に成形した構造で、長手方向に伸びた展開状態と、コイル状に巻き取った収納状態という二つの形状で安定する「双安定性」を持っています。この性質を利用することで、複雑な展開機構や保持機構を簡略化しながら、軽量かつコンパクトな宇宙構造を実現できる可能性があります。


図1 CFRP双安定ブームの収納状態と展開状態[1]
図1 CFRP双安定ブームの収納状態と展開状態[1]

安全に収納・展開するための力学特性評価

 一方、CFRP双安定ブームは非常に薄い構造であり、収納・展開の際には大きな曲げやねじりが生じます。特に小型・軽量化したブームでは、収納・展開中に自由端付近が損傷することが確認されています。そのため、ブームをさらに軽量化しながら高い展開信頼性を実現するためには、どこに、どのような応力やひずみが生じ、なぜ損傷するのかを明らかにする必要があります。

 本研究室では、CFRPの引張試験や曲げ試験に加え、収納時に生じる大きな曲げ変形を再現する独自の材料試験を行い、材料の剛性や破壊特性を評価しています。さらに有限要素法(FEM)を用いて収納から展開までの大変形を数値的に再現し、実験だけでは直接測定することが難しい応力・ひずみ分布も調べています。

 また、実際のCFRP双安定ブームにひずみゲージを取り付け、収納・展開中のひずみをその場で計測する研究も行っています。ブームの形状変化とひずみを同時に記録することで、数値解析の妥当性を検証しながら、より詳細な損傷メカニズムの解明を進めています。


図2 FEMと試験の比較[2]
図2 FEMと試験の比較[2]

月面タワー構造への応用

 CFRP双安定ブームの応用先の一つとして、月面で使用する展開型タワー構造の研究を行っています。月面では、将来の有人探査や長期滞在に向けて、太陽光発電や通信などのインフラ設備の構築が求められています。一方、月面には凹凸や傾斜が存在するほか、地球から輸送できる質量や体積にも大きな制約があります。そのため、輸送時には小さく収納し、月面到着後に展開できる軽量な構造が必要です。そこで本研究室では、軽量で収納・展開が可能なCFRP双安定ブームを支柱として用いる月面タワー構造について検討しています。

 一方、CFRP双安定ブームは非常に薄い開断面構造であるため、タワーの支柱として圧縮荷重を受けた際には、座屈による耐荷重性能の低下が重要な設計課題となります。また、実際のブームには、製造や収納・展開の履歴などに起因する断面形状の変化やねじれといった初期形状不整が存在し、これらがタワー全体の座屈挙動に影響を及ぼす可能性があります。

 そこで、FEMを用いて、タワーの寸法や展開状態、ブーム端部の拘束条件などが座屈荷重や変形挙動に与える影響を評価しています。さらに、ブレッドボードモデルを用いた載荷試験を実施し、実際の座屈挙動と解析結果を比較することで、数値解析モデルの検証と高度化を進めています。現在は、実測したブームの初期形状不整を解析モデルに反映することで、実構造により近い条件で座屈挙動を再現し、耐荷重性能をより精度よく評価するための研究にも取り組んでいます。これらの検討を通して、CFRP双安定ブームを用いた月面タワーの信頼性向上と、より合理的な構造設計につなげることを目指しています。


図3 月面タワーのイメージとFEMモデル[3][4]
図3 月面タワーのイメージとFEMモデル[3][4]

さまざまな展開構造への発展

 さらに、双安定性を円筒状のブームだけでなく、より複雑な形状へ応用する研究も行っています。その一例が、火星探査航空機を想定したCFRP展開翼です。翼型のように場所によって曲率が異なる断面について、収納時のひずみエネルギーを理論的に評価し、どのような形状や積層構成で双安定性が発現するかを調べています。また、収納性を高めるための材料設計と、翼として必要な剛性との両立について有限要素解析を用いて検討しています。


 このように本研究室では、材料レベルの強度・損傷評価から、収納・展開挙動の解析、さらには月面タワーや展開翼といった大型宇宙構造への応用まで、実験と数値解析の両面からCFRP双安定ブームの研究を進めています。




[1] Kajihara S., Yamashita S., Sunaga Y., Tokozeki T., Watanabe A., Iwahori Y., "Deformation behavior of CFRP bistable open-section cylindrical boom for lunar deployable structure", Thin-Walled Structures 216 (2025): 113651. doi: https://doi.org/10.1016/j.tws.2025.113651

[2] 青柳亘亮,梶原翔 (明治大学) , 佐藤泰貴 (JAXA) , 岩堀豊 (明治大学), CFRP双安定ブームの収納伸展時における自由端損傷破壊の原因推定, 第67回構造強度に関する講演会, 2B10, 2025.

[3] 竹内義高, 渕田安浩 (大林組), 宮﨑康行 (JAXA), 樋口健 (室蘭工業大学), 酒井良次. 渡邊秋人 (サカセ・アドテック), 月面探査用施設の無人設営を目指した展開構造物の技術開発, 第69回宇宙科学技術連合講演会, 4B14, 2025.

[4] 塩谷直大, 梶原翔, 岩堀豊 (明治大学), 渕田安浩, 竹内義高 (大林組), 宮崎康行 (JAXA), 樋口健 (室蘭工業大学), 酒井良次, 渡邊秋人 (サカセ・アドテック), CFRP製開断面型双安定ブームを支柱とする月面タワー状構造物の座屈破壊特性, 第69回宇宙科学技術連合講演会, 4N06, 2025.

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